今日は、経営者の中でよく話が上がる
「権利と義務の関係」について話をしたいと思います。
経営者は「社員が義務を果たしていない」と言い、
労働者は「それは自分の権利だ」と言います。
どちらも間違ってはいませんが、
どちらも足りない部分があります。
労働契約における「権利と義務」の構造と、
なぜ経営者と労働者の間で主張がすれ違うのかに
ついて見ていきます。
1. 大原則:権利と義務は「表裏一体」
労働契約は双務契約です(民法623条、労働契約法6条)。
労働者は労働力を提供し、使用者はその対価として
賃金を支払います。
対比して記載すると
・労働者の主たる義務:
労働力を提供すること(労務提供義務)
・経営者(使用者)の主たる義務:
その対価として賃金を支払うこと(賃金支払義務)
一方で労働者の賃金請求権は、使用者から見ると
賃金支払義務、
経営者の指揮命令権は、労働者から見ると
誠実に働く義務と言えます。
つまり、自分の権利は相手の義務であり、
相手の権利は自分の義務です。
一方だけを取り出して主張すると、
話がかみ合わなくなります。
「ノーワーク・ノーペイ」の原則が成り立つのも、
この対価関係があるからです。
2.双方の主張の整理
・経営者の言い分:「権利ばかり主張して、義務を果たしていない」
背景にある視点とすると、
経営者は、給与という対価を払っている以上、
指示に従い、一定の成果や真面目な勤務態度
(誠実労働義務)を期待します。
「指示した通りに動かない」「能力不足である」
「責任感が薄い」と感じると、
「義務を果たさずに有給休暇や残業代といった権利だけを
要求してくる」と不満を抱きます。
・労働者の言い分:「これは法律で認められた当然の権利だ」
背景にある視点とすると
労働者は、自身の時間と労働力を会社に拘束されています。
法律(労働基準法など)で定められた有給休暇、残業代、
安全な労働環境などは、労働者としての
「最低限の権利(労働者保護)」です。
「正当な主張をしているのに、会社は『権利の主張だ』と
冷遇してくる」と不満を抱きます。
いずれの視点にも立つことによって言っていることが
正当だということがわかります。
このズレを解き明かすカギは、労働契約に含まれる
「附随的(ふずいてき)義務」の理解にあります。
労働契約には、給料と労働力の交換だけでなく、
法律や判例によって双方に様々な「附随的義務」
が課されています。
付随的義務は例えば次のようになります。
●経営者
・権利:指揮命令権(業務指示・人事権)
施設管理権
・義務:(主たる義務+付随的義務)
賃金支払義務(主たる義務)
安全配慮義務(健康・安全への配慮)
職場環境配慮義務(ハラスメント防止等)
●労働者
・権利:賃金請求権
労働基準法上の権利(有給休暇・休日など)
・義務:(主たる義務+付随的義務)
労務提供義務(主たる義務)
職務専念義務(勤務時間中は仕事に集中)
誠実義務(秘密保持・競業避止・信用失墜行為の禁止)
労働者側は、極端な話
「言われた時間に会社にいれば義務を果たしている」
と考えがちですが、
経営者は「会社に貢献する質や態度(誠実義務・
職務専念義務)」まで含めて評価します。
実際の付随的義務にも、誠実に働く義務や職場の秩序を
守ることまでが含まれています。
経営者側は「給料を払っている」ほかにも、
安全配慮義務やハラスメント防止措置義務は
使用者の大事な義務です。
過重労働やメンタル不調で責任を問われる事案の多くは
ここが要因のひとつです。
権利の「行使」と「権利の濫用」について
労働者の権利(例:有給休暇の取得)は
原則として自由です。
しかし業務の正常な運営を妨げる場合、
経営者には「時季変更権」という調整の権利が
認められています。
権利は絶対的な無敵のカードではなく、
お互いの信義誠実(信義則)に基づいて
行使されるべきものだからです。
また権利は権利だが、「権利にも限界がある」と
考えると少し理解がしやすいと思います。
(極端に考えるとですが)
労働契約法3条には、双方に共通するルールが
定められています。
・信義誠実の原則(3条4項)
相手を裏切らないよう誠実に行動すること
・権利濫用の禁止(3条5項)
権利があっても、使い方によっては認められない
【経営者の権利の限界】
業務命令は、就業規則などに根拠があり、
業務上必要で、合理的な範囲内であることが必要です。
懲戒処分や解雇は、客観的に合理的な理由があり、
社会通念上相当と認められなければ無効になります
(労契法15条・16条)。
能力不足を理由にする場合も、会社側が
まず指導・教育を尽くしたかどうかが問われます。
【労働者の権利の限界】
年休は自由に使えるのが原則ですが、
事業の正常な運営を妨げる場合、
会社は時季変更権を行使できます(労基法39条5項)。
36協定と就業規則に根拠があれば、
合理的な範囲の残業命令には原則として
従う義務があります。(残業が悪ではありません)
権利を行使しても、職務専念義務や
誠実義務がなくなるわけではありません。
3.まとめ
経営者の方へ
・「条件の明確化」と「環境整備」を行う
・「義務を果たせ」の具体化
労働者に求める「義務」や「期待する水準」を、
就業規則や業務指示書で具体的に明文化・数値化
することが大事です。
「察して動く」「当たり前だ」を前提にすると
トラブルになります。
・職場環境の整理
有給休暇の取得があってもスムーズに会社が回る
体制を作ることで、組織力の向上と結果として
労働者のモチベーションと「誠実義務」
を引き出す近道になります。
労働者の方へ
・「権利の行使」を支えるのは「信頼関係」
・権利の背景を知る
労働者の権利は労働基準法という強力な法律に
守られていますが、それは「誠実に働くこと」
を前提とした信頼関係の上に成り立っています。
・配慮のある権利主張
有給休暇を取る際も、前もっていう、
最低限の引き継ぎを行うなど周りへの
配慮を見せることが、
自分の権利を尊重してもらうための
最良の手段です。
労働契約とは、単に「お金と時間の引き換え」ではなく、
「お互いの権利を尊重し合い、双方の義務を誠実に
履行するという信頼の約束」です。
経営者は、労働者の権利を守る義務を全うする。
労働者は、与えられた役割に対する責任(義務)を果たす。
この両輪が揃って初めて、お互いの想いを理解し、
健全で生産性の高い職場環境を築くことができます。
福井の社労士
シナジー経営社会保険労務士法人
シナジー経営株式会社








